焼き物の街、益子町で民藝の伝統に触れる

旅行記

焼き物の産地に行きたい。ふと思い立ち、今回は益子焼の産地である栃木県の益子町に伺うことにしました。なぜ益子かというと、大きな産地としては東京都内からアクセスしやすいことと、お求めやすい値段のものから見ることができるという益子焼のイメージがあったからです。実際現地に行ってみると、大量の器がびっくりするような安価なものから見ることができました。しかし私が特に気に入ったのが、それぞれのお店の片隅に置かれた個人作家さんの個性的な作品でした。益子焼の器はその親しみやすい雰囲気からかショップなどでも取り上げられていることが多い気がしますが、現地で見たものはそれとはまた違った魅力を持った器ばかりでした。なので街の雑貨屋さんや通販などで器をよく見たりするがわざわざ現地まで行こうとはなかなか思えない、そんな方にこそ焼き物の産地への旅をおすすめしたいです。

共販センターに到着、城内坂通りを下りながら陶芸の街を満喫

まず益子焼窯元共販センターに向かいます。こちらでは益子焼の様々な窯元の器が見ることのできる直売所になっており、お買い物の始めに益子焼のテイストを掴むのにちょうどいいかなと思います。驚いたのはその手頃なお値段で、湯呑みや小皿などがワンコインから手に入ります。コロナ以降のことなのか販売所として稼働しているのは広い敷地の中で一棟だけで、あと小さなギャラリーが営業しているだけでした。しかし共販センター自体は1966年からスタートした歴史あるもので、昭和感のある年季の入った建物を見て廻るだけでも個人的に楽しめました。

共販センター付近から500mほどの道のりが益子町のメインストリートである城内坂通りであり、緩やかな坂道に沿って30軒ほどの焼き物の販売所が並んでいます。それほどのお店の数だとどこも似たり寄ったりなのではと思うかもしれませんが、一軒一軒覗いてみるとそれぞれ個性あるお店ばかりで見飽きることがないです。日用品がなんでも安く揃うお店、芸術品のような作家さんの一点物だけ置かれたお店、カフェが併設されたお店、焼き物以外のおしゃれな雑貨もセレクトされたお店など。共販センターから下っていって終わりの交差点に辿り着く頃にはへとへとになりましたが、たくさんお店の中から自分の嗜好に刺さるスポットを見つけ出すのが楽しいです。

ちなみに私は共販センターの近くのやまに大塚で平皿やお茶碗などを購入しました。伝統的な雰囲気のものから現代的なかわいらしいデザインのものまで、広い店内で一通り見ることができるのでおすすめです。

個人作家の活躍する街としての益子

たくさんのお店が軒を連ねる背景には、個性の光る作品を作り続ける作家さんの存在があります。現在益子では他の産地に比べ大きな窯元が少なく、3人以下の小さな工房が大半を占めるそうです。個人作家が活躍する産地になったルーツには大正時代の民藝運動があります。「民藝」とは思想家の柳宗悦むねよしによって提唱された言葉で、当時の機械化・効率化を重視した西洋文化の広がりの中で、手仕事による日用品が軽んじられていた世相に警鐘が鳴らされました。

大正時代以降の工業化の流れで、それまで益子の主力製品だった壺や甕といった台所用品の売り上げが減少。より使いやすいガラスや金属製のものに置き換わっていきます。そんな中でも現在のように益子が陶芸の街として生き残り続けてきた背景には、手仕事の重要さを主張した民藝運動がありました。

たくさんのお店がありながら買い物するのに飽きが来ないのも、それぞれのお店に作家さんの個性的な作品が置かれたコーナーを設けているからです。その点では、お手頃の値段のものを一式揃えて食卓の雰囲気を変えてみるのもよし、自分お気に入りの作家さんの作品を見つけ出すのもよし、いろいろな楽しみ方ができるのが益子焼の魅力だと実感しました。

購入した器をご紹介

それでは今回の益子訪問で購入したものをご紹介いたします。民藝の街である益子にふさわしい、手仕事のぬくもりが感じられるすてきな器を見つけました。

以下の2点はどちらも若林郁代さんという方の作品で、旦那さんの若林そびえさんとともに益子で活動されています。お二人とも花をテーマにした作品づくりをされているようで、いろいろな色彩の作品を見ることができました。悩みに悩んだすえ灰色に赤が映えるこちらの椿の器にしました。

まず可愛らしいフォルムのマグカップ。微妙に湾曲した飲み口、面取りされたエッジの滑らかさ、把手を握ると感じる素地のざらざら感、どこをとっても触って癒される一品です。

こんなところにも葉っぱが散らされています。マットな灰色の地で、絵付けされた部分はきらきらと光沢感があります。おそらくこれは釉彩という技法で、絵の具ではなく釉薬で絵付けされたものだと思います。釉薬は焼き上げる温度や時間の微妙な違いによって結果が変化してしまうため、何度も試行錯誤した末の淡い赤であり深緑のような緑なのでしょう。通常の絵付けと違い釉彩は透明感があるため、同じ色の中にも微妙な濃淡が見ることができます。そこが非常に美しくずうっと見入ってしまいます。

もう一点。こちらは手のひらにすぽっとおさまるサイズの小鉢です。カップと同じ技法でつくられています。同じく絵付けの濃淡が楽しめるもので、葉っぱの部分をよく見ていただきたいのですが、色の濃淡と筆の流れによって葉脈の雰囲気が表現されているかのようです。

益子焼で使われる土は粘性が少なく割れやすい性質があるため、こちらのお皿のようにぽってりと厚手に作られる傾向があるそうです。どっしりとした色味の赤土が釉薬から透けてきれいなグラデーションをつくっています。

どちらの器も眺めて楽しい使ってより楽しいもので、きっと普段の生活に癒しを与えてくれるはずです。人の手で丹精込めて作られるものの素晴らしさを改めて認識しました。

こちらの器は共販センターの大狸像のちょうど向かいにあるたかく民芸さんで購入しました。二階建ての一軒家に所狭しと器が並べられています。様々なものがある中でも今回ご紹介したような花をテーマにした器がやはり特に目を引きました。伝統的な雰囲気がありながらもどこか可愛らしいものばかりで、産地まで直に足を運んでよかったと思えること間違いないでしょう。

ご店主からは作品のことなどいろいろ伺うことができました。先代のお父様から受け継がれたお店の風格もものすごいです。店内に入るとここだけまるで時が止まったかのような感覚になりました。


いかがでしたでしょうか。情報にしても物にしてもなんでもネットで揃うを思ってしまいがちの昨今ですが、今回の益子町訪問は現地に行ってみることの大切さを改めて考えさせられた機会となりました。特に上でご紹介した器などは、作家さんが産地にこだわって一つ一つ手仕事で少量作られるものであって、街のセレクトショップや通販サイトなどだけで済ましていては出会うことができなかったでしょう。新たな出会いを期待してまた近いうち益子町に再訪したなと思います。

益子焼の歴史などこちらの本を参考にしました
「やきものの教科書」,2020,誠文堂新光社

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